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閑遊閑吟 

きのね

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きのね (新潮文庫)(上)(下)宮尾登美子著

フラワーデザイナーで「アトリエオルタンシア」主宰の友人、落合邦子さんからのお薦めで、お借りしました。
お借りした本はお母さまが購入された平成2年の初版本で、上の写真とは違い、前田青邨の美しい花(牡丹?)の絵のカバーです。

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内容は歌舞伎役者・故十一代市川團十郎とその妻をモデルにした一代記。
宮尾登美子と言えば“昭和の女の生きざま!”というイメージですが、
この本も團十郎の妻千代をモデルにした光乃の視点で描かれています。

十一代團十郎は今の海老蔵のお祖父さんになりますね。
美形の立ち役で戦後の歌舞伎界をけん引し、ファンからは海老さまと呼ばれ、すごい人気だったそうです。

貧しい家に生まれ、女学校を出てすぐに女中奉公に出た光乃の入った先は歌舞伎役者・竹元宗四郎(七代目松本幸四郎)の家でした。
そこで光乃はその家の長男で歌舞伎役者の雪雄(十一代目市川團十郎)と出会います。

 「上野の口入れ屋の周旋だった。行徳の塩焚きの家に生れた光乃は、当代一の誉れ高い歌舞伎役者の大所帯へ奉公にあがった。昭和八年、実科女学校を出たての光乃、十八歳。やがて、世渡り下手の不器用者、病癒えて舞台復帰後間もない当家の長男、雪雄付きとなる。使いに行った歌舞伎座の楽屋で耳にした、幕開けを知らす拍子木の、鋭く冴えた響き。天からの合図を、光乃は聞いた……。(紹介分より)」

女中として仕えてきた光乃はたった一人で雪雄の子を産むのですが、そのシーンがすごい。
宮尾登美子は実際にへその緒を切ったお産婆さんに取材をしたそうです。
その子供って、今は亡き十二代團十郎がモデルなんですよねえ。

つつましく、よく働き、献身的に夫に尽くす光乃の生き方は私にはとても真似できないけれど、
ここまで愛を貫き通せるというのはひとりの女性としてある意味幸せなのかもしれません。


この本を読んでいて、私が台湾に留学していたときに語学学校で知り合った一人の女性のことを思い出しました。
小柄で地味だけれど感じのいい彼女とはたまに話すくらいでしたが、
中国語を習得することに執着している様子も見えないし、年のころは20歳そこそこ、
彼女が何を目的に留学しているのかは私にはよくわかりませんでした。

それが分かったのは私が日本人の在台留学生会に入り、会合に出席してからのこと。
その会の会長をしていたのは九州出身の男性だったのですが、末は中国語圏との商売を生業とすることを目論む明るい大らかな青年でした。
最初の印象からは彼と彼女が結びつかなかったのですが、どうやら二人は高校の同級生で、彼女は彼を追って台湾にやってきたらしい。

失礼ながらそんな情熱的な風には見えなかった彼女ですが、付き合っていくうちにとてもしっかりしていて芯が強いということがわかりました。
彼にはまだ定職もなく、アルバイトをしながら自費留学しているような状況でした。
それでも、そばにいて彼を支えていこうという彼女の健気な強さが印象的でした。

学生時代からの仲のいい友人たちはと言えば、安定したお相手を見つけるか、バリバリのキャリアを積んでいくかの二択。
自分の世界を捨て、彼に付いて知らない世界に飛び込む、という人はそれまで会ったことがなかったので、私にとってはとても刺激になりました。
私は当時既に20代後半、ふらふらとまだ自分探しをしていたような状態でした。
彼女と出会ったことはその後の私の人生に少なからず影響を与えたかもしれません。

二人は後に香港へ渡り、風の便りに彼女が出産したと聞きました。
今はどこでどうしているのだろう。


本の話に戻りますが、市川宗家の重圧というのは大変なものだと思いました。
歴代團十郎にも様々な逸話が残されていますが、この十一代も相当なもの。
今代の海老蔵の團十郎襲名もコロナショックで結局延期となってしまいました。
海老蔵は既に大きな不幸に見舞われていますから、来年は何とか無事に襲名披露を実現してほしいものです。


◆オススメ度 ★★★★☆ 文章も読みやすく面白いのでどんどん読み進むことができます。歌舞伎好きには特にお薦め。



by leonpyan | 2020-04-28 13:08 | 書籍 | Comments(0)

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