2017年 10月 15日 ( 1 )

最近読んだ本

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10月初めにギックリ腰になってしまったことで、
外出もほとんどキャンセル、図らずも時間ができまして、
保留になっていた本と気になる本を一気に読むことができました。

本はいつも何かしら読んではいるのですが、ブログに感想を書くのはほんの一部。
記録に留めておきたい時のみですが、この2冊は本当に良かった。

どちらも人生を、それも黄昏時の人生を咀嚼するような本です。
10年経ったらもう一度読んでみたい、そんな気がしました。



人間国宝、文化勲章受章、御年93歳の染色家、志村ふくみさんのエッセイ集です。
昨年、世田谷美術館へ「志村ふくみ―母衣(ぼろ)への回帰」展を観に行きました。
草木染の糸を紡ぎ、繊細な色彩を表現した着物はまるで一幅の絵画のようでした。
その幻想的な美しさに魅了され、このエッセイを購入しました。

志村さんには随筆家という肩書もあり、著作物も少なくありません。
読んでみて、その語彙の多さ、表現力の豊かさに驚くと同時に
『一色一生』のタイトルが示すように一色に一生を賭けるが如く、
織物へかける情熱と不断の努力と探求には深く感銘を受けました。

志村さんのこの文才はもちろん溢れるような才能と知性によるものでしょう。
が、この本の中の「私の会った人」の章の中で、陶芸家の富本憲吉氏から次のようなことばをいただいたと書かれていました。

「工芸の仕事をするものが陶器なら陶器、織物なら織物と、その事だけに一心になればそれでよいか、必ずゆきづまりが来る。
 何でもいい、何か別のことを勉強しなさい。 
(中略)
 あなたは何が好きか。文学ならば、国文学でも仏文学でも何でもよい。勉強しなさい。私はこれから数学をやりたいと思っている。
 若い頃英国に留学した時、建築をやりたいと勉強したが、それが今大いに役立っていると思う。」

このことばが志村さんの文筆活動に影響を与えていることは確かだと思います。
表現すること、それは織物であろうと、文章であろうと、根底には共通する何かがあるのだ、という思いを強くしました。


日の名残り (ハヤカワepi文庫)』 カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳

今をときめくカズオ・イシグロ氏の、イギリスを代表する作家としての名声を確固たるものとしたブッカー賞受賞の1989年の作品です。
全編、英国の執事スティーブンスの語りで構成されています。

感想の順番が逆になりますが、まずは翻訳が素晴らしい!
英国執事の’品格’(この小説のキーワードでもあります)を損なわない格調高い文章で、尚且つとても親しみやすく読みやすい。
途中、「忖度」なんて単語も出てきて、ウケました。

それにしても、ミスター・スティーブンスの愛おしさと言ったら胸が締め付けられるようです。
執事の仕事を全うするために、彼は指の間からすくった砂が流れ落ちていくように大切なものを失っていきます。
そこはちゃんと握っていないとダメでしょう!と何度叫びたくなったことか。

人は過去を振り返るとき、自分の都合のいいように記憶を塗り替えることがあります。
もしくはそのことを考えないようにし、感情を封じ込めてしまうことも。
先日テレビで瀬戸内寂聴さんがおっしゃっていましたが、
身体の痛みや辛いことはその時は一生忘れないと思っていても、人は忘れるようにできている、それはある意味幸せなことなのかもしれません。

ミスター・スティーブンスは人生を振り返り、旅の終わり近くの夕暮れ時にふと涙します。
自分が無駄にした人生、どこかでボタンを掛け違えてしまった人生を思いながらも
誇りを失なわず、品格を失わず、執事という職務に没頭してきたことに満足する理由を見つけようとします。
これからの人生の前向きな目標も定めながら。

ミスター・スティーブンスの一生は大英帝国の没落にも重なるのですが、それはとりあえずここでは書かないことにいたしましょう。

『日の名残り』はアンソニー・ホプキンス主演で映画化されているので、こちらも観てみようと思います。
私のイメージのミスター・スティーブンスはもう少し線が細くて地味な男前なんですけれどね(笑)。

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by leonpyan | 2017-10-15 21:31 | 書籍 | Comments(0)

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